家賃値上げを断るときの伝え方【例文付き】拒否しても退去にならない理由

契約者・入居者向け|賃貸トラブルと管理会社の対応

家賃値上げは、あなたが合意しない限り成立しません。断っても追い出されることはなく、いまの家賃のまま契約は更新されます。

ただし「無視」と「何でも突っぱねる」は、どちらも損をします。

この記事では、断れる法的根拠、通知の本気度の見分け方、断るべきかの判断基準、そのまま使える例文3本を管理会社の現場目線で解説します。

結論:家賃値上げは「合意」がなければ成立しない

家賃の値上げは、オーナーが一方的に決められるものではありません。根拠は借地借家法32条(借賃増減請求権)です。税負担や物価の変動などで賃料が不相当になったとき、オーナーは増額を「請求できる」だけで、入居者が同意しなければ金額は変わりません

「断ったら更新できないのでは」という心配も不要です。合意がまとまらないまま更新日を過ぎても、借地借家法26条により従前と同じ条件で契約は自動的に更新されます(法定更新)

つまり、値上げ通知が届いた時点で決まっていることは何もない。これが出発点です。

値上げ通知が来てからの時系列

  • 更新の3〜6か月前:更新案内に「新賃料」として記載されて届くケースが大半
  • 通知〜返答:ここが分かれ道。書面かメールで意思表示する
  • 交渉:据え置き・増額幅の調整。大半はここで決着する
  • まとまらない場合:従前の家賃を払い続ければOK。借地借家法32条2項により、裁判で確定するまでは「自分が相当と認める額」(=いまの家賃)を支払っていれば債務不履行になりません
  • オーナーが本気で争う場合:いきなり裁判はできず、まず調停が必要です(民事調停法24条の2・調停前置主義)。数千円の値上げで調停まで進むケースは、現場感覚ではほとんどありません

その値上げ通知、「本気度」を見分ける

管理会社で値上げ通知を送る側から言うと、通知には2種類あります。まずどちらかを見分けてください。対応がまったく変わります。

形式的な通知(据え置きが通りやすい)

  • 物件の全戸に一斉送付されている(隣人にも同じ通知が来ている)
  • 文面がテンプレートで、値上げの根拠が「諸般の事情」「物価高騰のため」程度
  • 金額が一律(全戸同額の値上げ)

これはオーナーから「一応打診して」と言われて管理会社が事務的に送っているもの。現場では「言ってみて、通ればラッキー」程度の温度感も多く、丁寧に断れば据え置きで決着しやすいパターンです。

本気の通知(突っぱね一辺倒は危険)

  • 個別に作成された書面で、宛名・金額があなたの部屋専用
  • 周辺相場の比較資料や固定資産税・修繕費の根拠が添付されている
  • 提示額が周辺相場と比べて妥当な水準

根拠資料を揃えている場合、オーナーは調停まで視野に入れています。この場合はゼロ回答ではなく「小幅な調整での協議」(後述の例文③)に切り替えるのが現実的です。

隠れた動機:売却準備の値上げ

もうひとつ、現場で増えているのが売却前の利回り対策です。収益物件の売却価格は「家賃収入÷利回り」で計算されるため、家賃を月3,000円上げるだけで物件の売却価格が数十万円単位で上がります。オーナーチェンジの噂がある、大規模修繕など売却前らしい動きがある——そんな物件の値上げ通知は、あなたの居住継続より売却益が目的のことがあります。この場合、退去されるとかえって売りにくくなるため、断っても強くは押されにくいのが実情です。

そして2026年は後者が増えています。建築費・人件費・修繕費の高騰で、オーナー側の値上げ要求には実体があるからです。都心部では更新時の増額が珍しくなくなりました。断る権利はあるが、相手の本気度を見てから打ち手を決める。これが損をしない順番です。

断る前に計算してほしい「損益分岐」

意外に思われるかもしれませんが、管理会社目線では「その値上げ、受けた方が得ですよ」というケースが結構あります。値上げを断って関係をこじらせる前に、一度だけ電卓を叩いてください。

引越した場合のコスト(単身・家賃8万円の例)

  • 敷金・礼金・仲介手数料・前家賃:約25〜35万円
  • 引越し業者代:約5〜10万円
  • 家具家電の買い替え・カーテン等:約5〜10万円
  • 合計:約40〜60万円

値上げを受けた場合の負担

  • 月2,000円の値上げ → 年間24,000円。引越しコスト回収に約17〜25年
  • 月5,000円の値上げ → 年間60,000円。回収に約7〜10年

月2,000〜3,000円程度の値上げなら、受けて住み続ける方が経済合理的なことが大半です。逆に月1万円超の値上げや、もともと住み替えを考えていたなら、これを機に引越しを検討する方が合理的。その場合は複数社の見積もり比較で引越し代だけでも数万円変わります。

▼ この状況の方へ

「それなら引越そうかな」と思った方へ——2026年7月から退去費用も上がります。先に知っておいてください。

→ 【2026年7月】退去費用がまた上がる|ナフサショックで原状回復費が高騰する理由と、払わなくていい費用の見分け方

断る前に10分だけ:相場を調べる

例文を送る前に、SUUMOやHOME’Sで「同じ駅・同じ間取り・近い築年数」の募集賃料を3件ほど確認してください。提示額が相場より明らかに高ければ、「近隣の同条件物件の募集賃料と比較しても」と断る根拠に使えます。逆にいまの家賃が相場より安い場合、本気の増額請求は通る可能性があるため、小幅調整での着地(例文③)に切り替える判断材料になります。

そのまま使える例文3本

例文①(やわらかめ)

今回の家賃改定のご提案について確認いたしました。申し訳ありませんが、現在の家計状況を踏まえると、家賃の増額にはお応えすることが難しい状況です。長く住み続けたいと考えておりますので、現行条件での更新をご検討いただけますと幸いです。

例文②(事務的)

家賃改定の件につきまして検討いたしましたが、今回の更新において家賃増額には同意いたしかねます。借地借家法上、賃料は合意により定まるものと理解しております。現行賃料での契約更新を希望いたします。

例文③(交渉型・本気の通知向け)

家賃改定のご提案を拝見しました。ご事情は理解しておりますが、提示額での増額は難しいため、今回は据え置き、または小幅な調整での協議をお願いできないでしょうか。なお、更新自体は希望しております。

ポイントは3つ。相手を責めない/理由は簡潔に/必ず書面かメールで残す。「更新は希望している」の一文があるだけで、担当者がオーナーに掛け合いやすくなります。現場で据え置きが通る人の共通点は、滞納がなく、長く住んでいて、この一文を入れてくる人です。

交渉で「クレーマー認定」されるNG行動

断り方と同じくらい大事なのが、余計なことを言わないことです。現場でよく見るNGがこれです。

  • 「設備も古いし壊れているのに値上げなんておかしい」
  • 「隣の部屋がうるさいのに値上げには応じられない」
  • 「そもそも管理が行き届いていない」

気持ちは分かりますが、賃料交渉に別の不満を持ち込んだ瞬間、管理会社の中では「条件でゴネる人」として記録に残ります。管理会社は入居者ごとに対応履歴を残しており、一度この印象がつくと、据え置き交渉が通りにくくなるだけでなく、その後の設備対応の優先度まで下がります。担当者がオーナーに「この人は据え置きでいいと思います」と言いにくくなるからです。

設備の不具合や騒音は、それ自体は正当な申し入れです。ただし値上げ交渉とは完全に切り離して、別の機会に淡々と連絡してください。交渉のカードに使った時点で、正当な申し入れまで「ゴネる材料」に見えてしまいます。

賃料の話は賃料の話だけ。感情を乗せず、事務的に、書面で。これが一番通る交渉です。

例文を送ったあとに起きること【返信パターン別】

送ったあとの流れまで知っておくと、不安はほぼ消えます。

パターン①「オーナーに確認します」と言われた

最も多い返答です。管理会社は値上げ交渉で揉めて退去されるのが一番困る(原状回復・募集コスト・空室損で値上げ分が吹き飛ぶ)ので、担当者は内心、据え置きで決着してほしいと思っています。1〜2週間待てば「今回は据え置きで」と返ってくるケースが多数派です。

パターン②減額した再提示が来た

「5,000円→2,500円でどうか」のような形。本気度が高い証拠なので、前述の損益分岐で判断してください。受けるなら「次回更新時の再増額は慎重にお願いしたい」と一言添えて合意するのが現場的には賢い落とし方です。

パターン③返事がないまま、新賃料の更新書類が届いた

慌てなくて大丈夫です。サインせず、「増額には同意していないため、現行賃料での更新を希望します」と改めて書面で伝えてください。そのまま更新日を過ぎても法定更新で従前条件が続きます。家賃はいままで通りの額を払い続けてください。

よくある勘違い

  • 「断ったら追い出される」→ 更新拒絶には借地借家法28条の正当事由が必要。値上げ拒否だけでは正当事由になりません
  • 「新賃料を払わないと滞納になる」→ 従前の家賃を払っていれば滞納になりません。ただし後日裁判で増額が確定した場合は、不足分に年1割の利息を付けて精算します
  • 「無視すればそのまま」→ 最悪の選択です。交渉の余地を自分から潰し、据え置きで通ったはずの話がこじれます
  • 「もうサインしてしまったら手遅れ」→ 原則、合意は有効ですが、提示額が周辺相場から大きくかけ離れている等の事情があれば減額請求(借地借家法32条)は今後も可能です。次回更新を待たず相談する選択肢もあります
  • 「書面をよく見ずに記名押印してしまった」→ 「読んでいなかった」を理由に後から取り消すこと(錯誤の主張)は、賃料欄に金額が明記されていた以上、原則認められません。記名押印した時点で新賃料への合意は有効です。現場でも「気づかなかった」という相談は毎年ありますが、覆せた例はほぼゼロ。更新書類は賃料欄だけは必ず確認してから押印する。これだけで防げます。なお相場から大きく外れた金額なら、前項と同じく減額請求の余地はあります
  • 「受け取りを拒否されたら払えない」→ オーナーが従前賃料の受け取りを拒んだ場合は、法務局に供託すれば滞納になりません。振込なら記録を残す。一番危険なのは「揉めているから」と払わないことです

放置リスクと今やるべきこと

やることは3つだけです。

  1. 通知の本気度を見分ける(一斉テンプレか、個別の根拠付きか)
  2. 期限内に、書面かメールで意思表示する(電話だけにしない)
  3. 家賃はいままで通り払い続ける

揉めそうなら一人で抱えず、法テラス(日本司法支援センター)の無料相談を使ってください。収入等の条件を満たせば弁護士相談が無料です。




まとめ

  • 家賃値上げは合意がなければ成立しない(借地借家法32条)
  • 通知には「形式的」と「本気」の2種類。見分けてから打ち手を決める
  • 月2,000〜3,000円なら受けた方が得なことも。電卓を叩いてから断る
  • 交渉に別の不満を混ぜない。賃料の話は賃料の話だけで淡々と
  • 断っても法定更新でいまの条件のまま住める。無視だけはNG

▼ 次にやるべきことはこちら

家賃の交渉が終わったら、更新書類のチェックです。そのままサインする前に確認すべき点があります。

→ 賃貸の契約更新、そのまま更新してOK?見直すべき5つのチェックポイント【管理会社が解説】

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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事情により対応は異なります。法的判断や具体的な対応は、必要に応じて弁護士・専門家・関係機関へご確認ください。

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