2026年7月から、原状回復と設備更新のコストが本格的に上がります。建材の値上げ、人件費高騰、そしてエアコンの値上がりが同時に来ます。
ここで「入居者に全部のせればいい」と考えるオーナーが、いちばん損をします。建材の欠品で工期が延び、客付けが止まるからです。
この記事は、コスト増を最小化し、空室期間を延ばさないための、オーナー・管理会社向けの実務対応です。
守るべきは「請求の転嫁」ではなく「発注・特約・適正請求」
先に結論です。2026年7月以降、賃貸経営のコストは確実に上がります。やるべきことは3つ。①建材・設備を早めに確保する、②契約段階で特約を整える、③ガイドラインに沿った“揉めない請求”をする——この順です。
逆にやってはいけないのが、値上がり分を退去者にそのまま請求すること。揉めて退去精算が長引けば、その間ずっと部屋は埋まりません。家賃1ヶ月分の空室損失は、原状回復で削れるコストより大きい。ここを取り違えると、目先の数万円を取りに行って数十万円を失います。
何が、なぜ、どれだけ上がるのか
きっかけは2026年2月のホルムズ海峡封鎖です。原油・ナフサが不足し、石油化学由来の建材が一斉に値上がりしました。いわゆるナフサショックです。これに人件費高騰が重なります。
賃貸経営に効く値上げはこれだけあります。
- 壁紙クロス:サンゲツ・東リが7月1日、リリカラが6月29日から18〜30%
- 床材(CF・フローリング):田島ルーフィングが7月21日に20〜30%
- 塗料・シンナー:日本ペイント75%、関西ペイント50%超。一部は供給停止の通知
- エアコン:2025年に各社10%超の値上げ。年2回改定が常態化。さらに2027年4月の省エネ基準改定で格安モデルが製造終了し、6畳用が現状5〜7万円から7〜10万円へ上がる見込み
- 人件費:建設労務単価は数年で約15%上昇。職人不足(建設業2026年問題)で工賃も上昇
クロス張替え単価は数年前の1,200円/㎡からすでに1,500円/㎡。7月はそこへさらに上乗せ、ということです。
本当の損失は「工期遅延 → 客付けが止まる」
ここがオーナー・管理会社が見落としがちな最大のリスクです。
ナフサショックの怖さは値上げよりも欠品・廃番・出荷制限にあります。塗料やメラミン化粧板の1部材が手に入らないだけで、工事全体が止まる「連鎖停止」が起きています。
原状回復が遅れれば、当然次の募集開始が遅れます。内見できる状態にならなければ客付けできない。家賃8万円の部屋なら、工期が1ヶ月延びるだけで8万円の空室損失。建材の値上げ分(数万円)より、こちらのダメージのほうが大きいわけです。
さらに見落とせないのが、入居予定者への損害賠償リスクです。工事が遅れ、契約した入居日に部屋を引き渡せないと、それは貸主側の引渡し義務の不履行になります。入居者が住む場所を失えば、ホテル代・仮住まいの家賃・余計にかかった引越費用が損害賠償の対象になりうる——国土交通省の相談対応事例集や住まいるダイヤルでも、貸主側に原因がある場合の補償対象として挙げられています。
つまり工期遅延は「空室損失」だけでは済みません。最悪、入居予定者への賠償まで発生する。建材の欠品で数週間ずれただけで、家賃以上の出費になりかねないということです。
ポイントは2つ。①入居日は工期に余裕を持たせて設定する(建材の納期遅れを織り込む)、②遅延が施工業者起因なら、業者の債務不履行として賠償・求償できるため、工事契約書に納期と遅延時の取り決めを入れておく。これが値上げ・欠品局面でのオーナーの防衛線です。
やってはいけない:値上げ便乗の過大請求
コストが上がると、つい退去者への請求でカバーしたくなります。ですが、これは現場でいちばん危ない判断です。
国の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」と民法621条で、通常損耗・経年劣化は貸主負担と明記されています。値上げを理由に「全面張替えを全額入居者負担」とすれば、ガイドライン違反として敷金返還を争われます。国民生活センターには原状回復の相談が年間1万件以上。訴訟・少額訴訟・口コミ炎上のコストは、節約した工事費を簡単に上回ります。
「材料が高いから」は、過大請求の正当化にはなりません。単価が上がっても、負担割合のルールは1ミリも変わらない——これを管理会社が現場で徹底できるかどうかが分かれ目です。
オーナー・管理会社の正しい守り方
実務で効く対策を5つ。
- 建材・設備を早期発注・在庫確保:値上げと欠品を前提に、退去前提の部屋は先に材料を押さえる。エアコンは2027年問題前の駆け込みで品薄化も想定。
- 相見積もり・工事業者の複線化:1社依存だと欠品時に工事が止まる。原状回復の一括見積もりでコストと納期の両方を比較する。
- 契約段階で特約を整備:定額クリーニング特約・原状回復特約を入居時に明確化しておけば、値上げ局面でも精算が早く・揉めない。
- 退去立会の精度を上げる/代行を活用:入退去時の状態をガイドライン基準で記録すれば、負担割合の根拠が残り、トラブルを未然に防げる。
- 入居日設定に余裕を持たせる/工事契約に納期条項:建材の納期遅れを前提に募集・入居日を設定。施工業者との契約に遅延時の取り決めを入れ、賠償リスクを業者側に転嫁できる状態にしておく。
よくある誤解:「全部入居者負担にできる」は不可能
クロスには耐用年数6年の考え方があり、6年経過で価値はほぼ1円。入居者が破損させても、請求できるのは残価分だけです。値上げで新品単価が上がっても、按分の分母が変わるだけで、入居者に全額を負わせる根拠にはなりません。設備(エアコン等)も同様に耐用年数で按分します。ここを誤解した請求が、返還トラブルの大半です。
次の一手
2026年は、建材・設備・人件費が同時に上がる年です。コスト増は避けられませんが、早く動いて建材を確保し、適正な請求で揉めずに客付けを止めない——この差が、年間の利回りを左右します。
まずは原状回復・リフォームの一括見積もりで、コストと納期を握れる業者を確保しておきましょう。退去が出てから慌てるのが、いちばん高くつきます。
📝 NOTE
管理会社の”本音”、noteでも話してます
同じテーマを、noteではもう少し話しかけるように書いています。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事情により対応は異なります。法的判断や具体的な対応は、必要に応じて弁護士・専門家・関係機関へご確認ください。



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