賃貸の又貸しを発見したらどう動く?是正要求・誓約書・内容証明の実務手順

オーナー向け|管理会社の判断と本音
ある日、近隣住民から「あの部屋、知らない人が何人も出入りしてる」と連絡が来た。共用部で見かけない顔が増えた。郵便受けに知らない名前が増えた——。

転貸(又貸し)は、こういう「気になる小さなサイン」から発覚することがほとんどです。問題は、発覚した後にどう動くかです。「家賃も払ってるし、しばらく様子を見よう」という判断が、後々の契約解除を不可能にすることがある。管理会社・オーナーとして知っておかなければならない法的リスクと、現場で使える対応手順をまとめました。

1. 転貸(又貸し)とは何か|法的定義と禁止の根拠

転貸とは、賃借人が貸主の承諾を得ずに、第三者に物件を貸し出す行為です。「又貸し」「無断転貸」とも呼ばれます。

📋 民法612条 第1項:賃借人は、賃貸人の承諾なく賃借権を譲渡・転貸することができない
第2項:無断転貸があった場合、賃貸人は契約を解除することができる

契約書に禁止条項がない場合でも、民法の規定が適用されるため、転貸は原則として解除事由になります。

「転貸」「同居」「契約違反」の違いを整理する

行為 占有の移転 転貸に該当 備考
婚約者・配偶者が同居する なし ❌ 非該当 一人入居契約なら契約違反
親族(兄弟・子など)が住んでいる なし ❌ 非該当 転貸ではないが一人入居特約違反
知人に部屋を貸し、賃料をもらう あり ✅ 該当 民法612条適用
部屋の一部を第三者に貸す(間借り) あり ✅ 該当 一部のみでも該当する
個人→法人名義に変更 あり(形式的) ✅ 形式的に該当する場合あり 実態による

一人入居契約での親族同居|転貸ではないが契約違反になる

📌 よくある誤解 「息子が訪ねてきて、そのまま住み着いた」「離婚した妹を一時的に泊めている」——これらは第三者への賃料授受がなく、厳密には転貸には該当しません

しかし、契約書に「本人一名入居」「単身入居限定」と明記されている場合、親族であっても同居は契約違反(用法遵守義務違反)になります。解除事由になりうる点は転貸と同じです。

現場では「家族なのになぜダメなのか」と言われることが多いです。「家族かどうかではなく、契約内容の問題です」と毅然として説明してください。同居申請の手続きで解決できるケースは、まずその手続きを案内する方向で対応します。

2. 転貸が起きやすいパターン|現場でよく見るケース

ケース①|外国籍の知人を住まわせる

外国籍で審査が通らない人を、日本人名義の契約者が住まわせるケース。表向きは「友人が一時的に泊まっている」と説明されるが、実態は長期居住・賃料授受ありという状況が多い。発覚のきっかけは近隣からの騒音・生活習慣トラブルが多い。

ケース②|転勤中に知人に貸す

契約者が遠方に転勤になり、「空き家にするのももったいないから」と友人に住まわせる。家賃は自分が払い続けているため、管理会社側は気づきにくい。

ケース③|民泊化

AirbnbなどのOTAを使って不特定多数に貸し出すケース。頻繁に不特定多数の出入りがあることで発覚することが多い。近年、高額の違約金を請求するオーナーが増えている。

ケース④|親族名義の「名義貸し」

親が契約者で、実際には成人した子や別の親族が住んでいる。転貸ではなく一人入居特約違反として整理できるケースが多い。

3. 転貸に気づくサイン|見逃しやすいポイント

  • 共用部で見かけない人物が頻繁に出入りしている
  • 郵便受けに複数の名前・外国語表記が増えている
  • 近隣住民から「知らない人が住んでいるようだ」と連絡がある
  • 緊急連絡先の家族に連絡すると「本人は別の場所にいる」と言われる
  • 入居者との連絡がつかず、別の人が対応に出る
  • 民泊サイトで物件の住所・写真が一致する部屋が掲載されている
  • 今まで一度も滞納がなかったのに、急に家賃が遅れ始めた
💡 家賃滞納は転貸のサインである場合がある
転貸中は「転借人から賃料をもらう→契約者がオーナーに払う」という構図になっています。転借人が払わなくなった瞬間、契約者の資金繰りが崩れて滞納に転じます。これまで優良だった入居者の急な滞納は、転貸が裏で行われているサインの可能性を疑ってください。
💡 郵便受けの変化も重要な手がかり
定期巡回の際に郵便受けを確認する習慣をつけておくと、転貸・無断同居の早期発見につながります。
🏢 管理会社の本音

転貸で一番多いのは「家賃は入ってるけど知らない人が住んでる」パターンです。管理会社が最初に気づくのは、近隣からの苦情・共用部での目撃情報・郵便受けの変化あたり。契約者本人に確認すると、意外と素直に「実は…」と認める人も多い。問題は、その時点でどれだけ時間が経っているかです。

4. 転貸を発見したら最初にやること|放置が一番危険な理由

「家賃は入ってるから、まあいいか」——この判断が致命的です。

黙示の承諾リスク

転貸の事実を知りながら放置していると、「貸主が黙って認めた(黙示の承諾)」とみなされるリスクがあります。黙示の承諾が認定されると、その後に契約解除を求めても認められない可能性が高まります。放置期間が長ければ長いほど、このリスクは高まります。

発見したら即日、以下の記録をとる

  • 発覚した日時・状況を文書化する
  • 通報者(近隣住民など)からの情報を書面で記録する
  • 共用部や外観の変化を写真で記録する
  • 民泊サイトへの掲載があればスクリーンショットを保存する
証拠を確保しないまま口頭で「やめてください」と言うだけでは、後の解除手続きで争われたときに対応できません。初動の記録が後の全てを決めます。

5. 転借人(実際に住んでいる人)への直接対応

管理会社が転借人に直接接触してよいか?

民法613条1項により、転借人は賃貸人(オーナー)に対して直接義務を負います。管理会社はオーナーの代理として転借人に対して対応することが可能です。ただし、直接強制退去を求めることはできません。あくまで状況確認・事実把握が目的になります。

直接対応時に確認すること

確認事項 方法・ポイント
いつから居住しているか 口頭確認+書面で記録。転貸の期間・黙示承諾リスクの判断に使う
契約者との関係性 友人・知人・親族・ビジネス関係など。賃料授受の有無も確認する
賃料の授受はあるか 「お金を払っているか」を確認する。転貸の成立要件の一つ
他に同居者はいるか 一人とは限らない。複数人いる場合は全員の確認が必要
住民票は移しているか 住民票が移っている場合、居住実態が明確になる
身分証の確認 任意でお願いすることは可能。強制力はないが、提示してもらえれば書面で記録
電話番号の確認 同上。「後日のご連絡のために」という名目で聞きやすい

身分証・電話番号確認の注意点

  • 強制できない:任意での提示依頼になる。拒否しても法的に問題ない
  • 利用目的を明示する:「居住確認・後日の連絡のために確認します」と伝える(個人情報保護法上の義務)
  • コピーを取る場合は同意が必要:「記録させていただいてよいですか」と一言添える
  • 拒否された場合もその事実を記録する:「提示を拒否した」という事実が後の証拠になる
🏢 管理会社の本音

転借人に直接接触する場合、「あなたを追い出しに来た」という雰囲気にしないのがポイントです。最初は「居住状況の確認」として入り、氏名・連絡先・いつから住んでいるか・契約者との関係を聞く。身分証の提示はお願いベースですが「後のご連絡のために」と言えば出してくれる人は多い。拒否された場合もその事実を記録しておく。この段階での会話内容・確認結果は必ず書面で残してください。後の解除手続きの証拠になります。

6. 契約者への対応フロー|連絡がついた場合・つかない場合

「事実確認」と「契約違反の通知」は別ステップです。いきなり「契約違反です」と切り出すのは順番が違います。
① 事実確認(転貸しているか?)
② 転貸の事実が確定
③ 契約違反の通知・是正要求(書面送付)
④ 解除判断(オーナーと協議)

■ 連絡がついた場合

1
まず事実確認 「現在の居住状況を確認させてください」から入る。「転貸していますか?」と直接聞いてよい。認めた場合はその内容を書面で残す(メモ・メール・確認書)。
2
契約違反であることを通知 「契約書第○条に違反します」と条項ベースで伝える。感情的にならず、事実として淡々と伝える。口頭だけで終わらせず、必ず書面(メール・書留)で同内容を送付して記録を残す。
3
是正を求める 転借人をいつまでに退去させるか、期限を設けて回答を求める。「○月○日までに転貸状態を解消し、書面でご報告ください」と明示する。

是正に応じた場合は、後述の誓約書を取得します。

是正要求書(オーナー名義・書留送付用)雛形

📄 雛形①|是正要求書(書留用・オーナー名義)
居住状況に関するご確認とお願い 令和  年  月  日 契約者氏名     様    物件所在地:    賃 貸 人:       (オーナー氏名)  ㊞    (管理会社):株式会社○○ 担当: 拝啓 このたび、貴殿がご入居中の上記物件において、 契約者以外の第三者が居住されている事実を確認いたしました。 賃貸借契約書第 条および民法第612条の規定により、 賃貸人の承諾なく第三者に転貸することは契約違反となります。 つきましては、令和  年  月  日までに、 下記の対応をお願いいたします。 【ご対応のお願い】 1.転貸状態を解消し、第三者を退去させること 2.解消が完了した旨を、書面にてご報告いただくこと 期限までにご対応いただけない場合は、 賃貸借契約の解除を含む法的対応を検討いたします。 敬具 ※本書面は賃貸人の依頼により管理会社が代行して発送しております。  ご連絡は下記管理会社担当者までお願いいたします。  TEL:

■ 連絡がつかない場合

電話・SMS・メールすべて不通の場合は段階を踏んで対応します。最初から内容証明を送ると関係が一気に対立構造になるため、順番が重要です。

段階 手段 内容
配達証明付き書留 居住状況の確認・連絡の依頼
② 不在・無視が続く 内容証明郵便 転貸の事実確認・是正要求・期限の明示
③ 期限を過ぎても無視 弁護士対応へ 解除通知・明渡請求

内容証明郵便(オーナー名義)雛形

📄 雛形②|内容証明郵便(是正要求・オーナー名義)
転貸行為に関する是正要求書 令和  年  月  日 契約者氏名     様    物件所在地:    賃 貸 人:       (オーナー氏名)  ㊞   管理会社(代理):株式会社○○ 当社は上記物件の賃貸人より管理業務の委託を受けた管理会社です。 以下のとおり通知いたします。 1.確認した事実  令和  年  月  日頃より、貴殿が賃借中の上記物件において、  契約者以外の第三者が居住していることを確認しております。 2.契約違反の根拠  賃貸借契約書第 条において無断転貸を禁止しており、  民法第612条第1項に基づき、貸主の承諾なき転貸は  禁止行為に該当します。 3.是正期限  本書面到達後  日以内(令和  年  月  日まで)に、  転貸状態を解消し、書面にてご報告ください。 4.是正がない場合の対応  上記期限までに是正が確認できない場合は、  賃貸借契約書第 条および民法第612条第2項に基づき、  賃貸借契約の解除を行い、物件の明渡しを請求いたします。  なお、本書面は賃貸人の委託に基づき、  管理会社が代理人として発送するものです。 以上

誓約書(是正に応じた場合・契約者から差し入れてもらう)雛形

📄 雛形③|誓約書(転貸・無断同居の解消・再発防止用)
誓 約 書 令和  年  月  日 株式会社○○(管理会社名) 御中  住所:  氏名:                ㊞ 私は、下記物件の賃借人として、以下の事実を認め、 誓約いたします。 【物件情報】  所在地:  部屋番号:  契約締結日:令和  年  月  日 1.事実の認否  私は、貴社および賃貸人の承諾を得ることなく、  令和  年  月頃より、下記の者を上記物件に  居住させていたことを認めます。  氏名:        (続柄・関係:     )  入居開始時期:令和  年  月頃  上記行為が賃貸借契約書第 条および  民法第612条に違反する行為であることを理解しております。 2.解消の約束  令和  年  月  日までに、上記の者を退去させ、  転貸(無断同居)状態を完全に解消いたします。  解消が完了した際は、速やかに書面にてご報告いたします。 3.再発防止の約束  今後、賃貸人および貴社の書面による承諾なく、  第三者を居住させる行為を一切行いません。 4.違反した場合の取り扱い  上記2の期限までに解消が確認できない場合、  または上記3に違反した場合は、  賃貸借契約書第 条に基づき、  賃貸借契約を解除されることに異議を申し立てません。 以上、本誓約書を差し入れいたします。 ───────────────────────────── (管理会社受領欄)  受領日:令和  年  月  日  担当者:              ㊞
🏢 管理会社の本音

連絡がついた場合でも「電話で話した」だけで終わらせるのが一番の失敗パターンです。「言った・言わない」になる。必ずその日のうちにメールか書留で同内容を送って記録を残す。内容証明は「解除する覚悟があるとき」に使うもの。まず書留、それでも動かなければ内容証明という順番が現場では使いやすい。誓約書の一番の価値は「解除への同意」を取っておくこと。次に違反したとき、誓約書に署名した事実が信頼関係破壊の立証を強力にサポートします。

7. 管理会社の役割と対応範囲

管理会社は管理委託契約に基づき、契約書の条項に則った対応を行います。是正要求・事実確認・書面の送付は管理委託契約の範囲内で主体的に動くことができます。オーナーに対しても、賃貸借契約の条項に基づいた対応を取るよう提案・サポートするのが管理会社の役割です。

明渡し訴訟に進む場合は、オーナーが原告となるため委任状へのオーナーの記名・押印が必須となります。この段階では必ずオーナーの承諾と署名を取得してください。

対応内容 差出人・主体 オーナー対応
事実確認・居住状況の確認 管理会社 報告のみ
是正要求書(書留) オーナー名義・管理会社代行 署名・押印が必要
内容証明郵便 オーナー名義・管理会社代行 署名・押印が必要
解除通知 オーナー名義 契約書に基づき対応
明渡し訴訟 オーナー名義 委任状への記名・押印が必須
🏢 管理会社の本音

書面をオーナー名義にすることで「賃貸人本人が動いている」という事実が明確になり、相手への抑止力が上がります。管理会社名義だと「管理会社が言ってるだけ」と受け取られるケースがある。是正要求までは管理会社が主体的に動ける範囲です。「何でもオーナーにお伺いを立てる」のではなく、「解除・訴訟という不可逆な判断だけ必ずオーナーと確認する」という区別をしっかり持っておくことが大事です。

8. 転貸でも解除できないケース|信頼関係破壊の法理

無断転貸は民法上の解除事由ですが、すべてのケースで解除が認められるわけではありません。最高裁の判例では「信頼関係を破壊するに足りない特段の事情がある場合には解除できない」とされています。

ケース 解除が認められにくい理由 実務上の対応
個人事業主が法人成りして法人名義で使用 実態が従前と変わらない場合 契約の巻き直し・地位承継の覚書
契約者が死亡し、残された家族がそのまま居住 相続的な事情 名義変更・契約の巻き直し
一部のみの転貸で期間も短く営利性が低い 違反の程度が軽微 誓約書取得・転貸解消で対応
長期間の放置により黙示の承諾が認定 オーナー側の対応に問題あり 初動が遅れた場合は弁護士に相談

9. 再発防止策|管理会社・オーナーができること

契約書への明記

  • 「同居・転貸の際には事前に書面で申請し、貸主の承認を得ること」
  • 「違反時は是正要求後も解消されない場合に解除できる旨」

定期巡回・共用部チェックの習慣化

郵便受け・駐輪台数・自転車置き場などを定期的に確認することで変化に早く気づける。

更新時の居住状況確認

更新のタイミングで「現在の居住状況確認書」を書面で取得し、自署・捺印をもらっておく。後の「知らなかった」を防ぎ、万一の際の証拠にもなります。

まとめ|転貸対応は「スピード」と「証拠」が全て

状況 やるべきこと
転貸の疑いが生じた 証拠の保全・事実確認を即日開始する
転貸が確認された 記録を残す・放置しない(黙示の承諾リスク)
契約者と連絡がついた 是正要求書を書面で送付・誓約書を取得する
連絡がつかない 書留→内容証明の順で対応
是正されない・無視が続く 弁護士対応・解除通知・明渡請求へ
穏便解決できるケース 誓約書の取得・転貸状態の即時解消
「家賃が入ってるからいいか」が一番危険な発想です。発覚した時点での初動が、その後の解決コストと結末を大きく変えます。

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