更新書面を返さないでいると、期間満了日をもって法定更新になる。「更新していない」ではない。「法定更新という形で更新された」が正解だ。そしてこの法定更新、管理会社にとっては都合がいい状態になっている。更新料を節約できると思って書類を無視した結果、気づかないうちに不利な立場になっている入居者は現場で珍しくない。
法定更新とは(借地借家法26条)
期間満了の1〜6ヶ月前までに「更新しない」旨の通知がなければ、自動的に契約が続く。これが法定更新だ。根拠は借地借家法第26条第1項だ。
当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。(借地借家法第26条第1項)
ただし更新後の契約は「期間の定めのない契約」に変わる。ここから話が変わってくる。
「期間の定めのない契約」になると何が起きるか
① 退去するとき、1ヶ月前では済まない可能性がある
民法617条により、期間の定めのない建物賃貸借の解約は3ヶ月前予告が原則だ。契約書に「1ヶ月前特約」があっても、それが法定更新後も有効かどうかは管理会社によって対応が分かれる。
現場でよくある場面:「来月引越したい」→管理会社「3ヶ月分の家賃が発生します」→入居者「え?」この段階で初めて法定更新の意味を理解する入居者が多い。
② 管理会社がいつでも動ける状態になる
合意更新中は「次の更新まで待つ」という時間軸がある。法定更新後はそれがない。オーナーから賃料値上げ・退去の話が出たとき、管理会社はすぐ動ける。入居者側に「更新しない」という交渉カードがないからだ。
③ 保証会社の保証が切れるケースがある
多くの保証会社は合意更新と連動して保証を更新する。法定更新後は確認しないと、知らないうちに保証が切れている可能性がある。管理会社から突然「保証会社の再加入をお願いします」と連絡が来るのはこれが理由だ。
メリットも正直に書く
① 更新料が不要になるケースがある
「合意更新の場合に更新料を支払う」とだけ書いてある契約書なら、法定更新時に更新料の根拠がないと判断される可能性がある(最判H23.7.12)。ただし契約書次第なので必ず確認すること。
② 書類返送の手間がない
③ 次回以降の更新期限・更新料のループがなくなる
合意更新 vs 法定更新 比較
| 項目 | 合意更新 | 法定更新 |
|---|---|---|
| 更新料 | 契約書通り発生 | 不要になるケースあり |
| 書類 | 署名・返送必要 | 不要 |
| 契約期間 | 通常2年 | 期間の定めなし |
| 解約予告 | 通常1ヶ月前 | 3ヶ月前が原則 |
| 保証会社 | 連動して継続 | 切れるケースあり |
| 管理会社 | 交渉機会あり | 管理会社が主導しやすい |
実際に起きたトラブル事例
ケース①:解約予告で3ヶ月分請求された
入居者Aさんは更新書類を返送せず法定更新になっていた。転職を機に引越しを決め「来月末で退去したい」と連絡。管理会社は「期間の定めのない契約のため3ヶ月前予告が必要。来月末退去なら3ヶ月分の家賃が発生します」と回答。Aさんは「1ヶ月前でいいはずだ」と主張したが折り合いがつかず、最終的に2ヶ月分を支払って合意した。
ケース②:賃料値上げを突然求められた
法定更新のまま3年住み続けていたBさんに、ある日管理会社から「賃料を月5,000円値上げしたい」と連絡が来た。借地借家法32条に基づく賃料増額請求は合意がなければ裁判になるが、Bさんには「更新しない」という交渉カードがなく、時間軸も管理会社が握っていた。合意更新のタイミングであれば「更新しない選択肢」を盾に交渉できた可能性が高い。
ケース③:保証会社の再加入審査が通らなかった
法定更新のまま2年が経過したCさんに「保証会社の保証期間が切れているため再加入が必要」と連絡が来た。再加入審査の結果、収入状況の変化を理由に審査が通らず、別の保証会社への切り替えを求められた。保証会社によっては再加入時に初回保証料が再度発生するケースもある。
管理会社の本音
「更新料が浮いて得した」と思っている入居者は、管理会社にとって何もしなくていい客だ。しかし現場では以下のことが起き続ける。
督促が止まらない
管理会社は更新書類の未返送を「未対応案件」として管理する。督促の連絡は期間満了後も継続して送られ続ける。それでも連絡が取れない場合、管理会社は以下の手段に移行する。
- 物件への直接訪問
- 勤務先への連絡
- 緊急連絡先・保証人への連絡
「書類を無視していれば終わる」ではない。連絡が取れないほど、周囲を巻き込んだ対応に発展する。無視するほど状況は悪化する。
信頼関係が崩れる
更新書類の未返送が続くと、管理会社・オーナーからの心証が悪化する。退去時の原状回復交渉、設備修繕の対応スピード、賃料交渉など、今後の入居生活全般に影響する。「ちゃんと対応してくれる入居者か」は管理会社の中で蓄積されていく。
保証会社に影響が出る
更新手続きが滞ったまま家賃滞納が発生した場合、保証会社が代位弁済を行う流れになる。ただし保証期間が切れていた場合は代位弁済の対象外となり、管理会社が直接回収しなければならない事態になる。保証会社側も未更新案件は管理が難しく、次回の保証審査に影響することがある。
住宅総合保険が未加入状態になるケースがある
更新手続きと連動して火災保険・住宅総合保険の更新を行う契約になっている場合、法定更新後に保険が失効しているケースがある。この状態で火災・水漏れ・盗難などが発生しても保険が下りない。第三者への賠償責任が発生した場合も無保険状態となる。
管理会社への確認方法
① 解約予告期間の確認
「現在の契約は法定更新になっていますか?解約予告は何ヶ月前が必要ですか?」と直接聞く。口頭でなくメールで確認し記録を残す。
② 保証会社の継続状況の確認
「現在の保証会社の保証は継続されていますか?保証期間はいつまでですか?」と確認する。
③ 更新料の扱いの確認
「法定更新になった場合、更新料の請求はありますか?」と聞く。契約書を手元に用意した上で確認するとやり取りがスムーズだ。
④ 火災保険の確認
「現在加入している火災保険・住宅総合保険は継続されていますか?」を保険会社または管理会社に確認する。
よくある質問
Q. 法定更新になってしまったが、今から合意更新に戻せますか?
できる。管理会社に「合意更新の書類を交わしたい」と申し出ればよい。ただし更新料が発生する可能性があるため、事前に条件を確認すること。
Q. 法定更新中に更新料を請求されたら払わないといけませんか?
契約書次第。「法定更新時も更新料を支払う」旨の記載があれば支払い義務がある。記載がなければ拒否できる可能性が高い。判断が難しければ法テラスに相談する。
Q. 解約予告を1ヶ月前にしたいが3ヶ月分請求されそうです。どうすれば?
契約書の1ヶ月前特約が法定更新後も有効かどうかを管理会社と確認する。折り合いがつかない場合は弁護士・法テラスへの相談が現実的だ。
Q. 保証会社の再加入審査が通らなかった場合、退去させられますか?
保証加入が契約条件になっている場合、即退去にはならないが契約違反になる可能性がある。管理会社と代替の保証手段を相談する。
結局どちらを選ぶべきか
法定更新でいいのは以下がそろっているとき:
- 契約書に更新料不要と読める記載がある
- 近い将来引越し予定がない
- 保証会社の継続状況を確認済み
- 解約予告の特約が法定更新後も有効と管理会社に確認済み
- 火災保険の継続を確認済み
更新料を節約したいなら、書類を無視するより合意更新の中で減額交渉する方が現実的だ。法定更新に持ち込もうとして管理会社との関係が悪化するリスクの方が大きい。
📝 NOTE
管理会社の”本音”、noteでも話してます
同じテーマを、noteではもう少し話しかけるように書いています。
コメントや質問はnoteの方がしやすいので、お気軽にどうぞ。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別事情により対応は異なります。法的判断や具体的な対応は、必要に応じて弁護士・専門家・関係機関へご確認ください。



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