家賃の値上げ通知が届いたとき、多くの人が「断ったら退去させられるのでは」と不安になります。
それは誤解です。
先に結論を言います。
家賃の値上げは、入居者が同意しなければ成立しません。
これは感情論ではなく、借地借家法第32条に定められた入居者の権利です。通知が届いた翌月から自動的に新家賃になる、などということは法律上あり得ません。オーナーが値上げを「請求する」ことはできますが、あくまで請求であって命令ではない。同意なき値上げは無効です。
「断ったら関係が悪くなる」「揉めたくない」という気持ちはわかります。ただ、知らないまま黙って受け入れるのと、知った上で冷静に対応するのでは、結果が大きく変わります。
この記事では、不動産管理会社で15年働いてきた現場目線で、オーナーが値上げをしてくる本音の理由と、入居者が損をしない対応の仕方を建前なしで解説します。
オーナーが値上げを考える、3つのリアルな理由
① 修繕・維持コストが数年前と別物になっている
外壁塗装、給湯器交換、水回りのリフォーム。以前と「同じ工事」でも、費用は1.2〜1.5倍になっているケースがざらにあります。
原因は2つです。
- 原材料費の高騰(特に2022年以降、建材・給湯器・エアコンなどの設備機器が顕著)
- 職人不足による人件費の上昇(現場作業員の高齢化と若手不足が深刻で、単価が上がっています)
築年数が古い物件ほど修繕頻度は上がる一方、コストも増えている。オーナーにとって「現状維持」自体がじわじわとキツくなっているのが今の状況です。
② 税・保険の負担が静かに増えている
固定資産税の評価替え(3年ごとに実施)、火災保険料の改定。どちらも「お知らせが来るだけ」で、オーナーが拒否できるものではありません。
特に火災保険は近年の自然災害増加を受けて改定が続いており、保険料が以前より30〜50%近く上がっているケースもあります。手残り(=家賃収入から諸経費を引いた実質収益)が、家賃を据え置いたまま自然と削られていく構図です。「値上げしないと収支が合わない」という状態に追い込まれているオーナーは、思っているより多くいます。
③ 「周りが上げてるから、とりあえず」という値上げも多い
これは管理会社として正直に言います。
「近隣相場が上がっているので、検討してみてはどうでしょう?」と管理会社から話を受けて、深く考えずに通知を出すオーナーは少なくありません。強い根拠があっての値上げではなく、「言ってみた」「断られたら別にいい」レベルのケースも実際には存在します。こういうケースは、入居者側が冷静に対応するだけで話がまとまることがほとんどです。
本音:オーナーは「全員から取りたい」わけじゃない
値上げ通知が来ると「追い出したいのか」と感じる方もいますが、ほとんどのケースでそれは誤解です。
オーナーが本当に嫌なのは、退去 → 空室 → 原状回復費・募集広告費の発生というコストとリスクの連鎖です。
退去が出ると、クリーニング・原状回復で最低でも数万円。さらに入居者が決まるまでの空室期間中は家賃収入がゼロ。仲介手数料も発生します。月5,000円の値上げを強行した結果、入居者が退去してしまえば、その損失を取り戻すまでに何年もかかります。
良い入居者に長く住んでもらいたいというのは、オーナーの本音中の本音です。
値上げ通知は「法律的に」どういう意味を持つのか
土地・建物に関する租税の増加、経済事情の変動、近傍同種の建物との比較などにより、家賃が不相当となった場合に増減を「請求」できると定められています。あくまで請求権であり、強制力はありません。
つまり、オーナーが値上げを「請求する」ことはできますが、入居者が同意しなければその場で値上げが成立するわけではありません。通知が届いた翌月から自動的に新家賃になる、ということはなく、合意なき値上げは無効です。
交渉中はどうすればいい?
協議が続いている間は、従来の家賃額を支払い続けることが正しい対応です。値上げに反発して家賃そのものを払わないのは完全にNGです。あくまで「従来額を払いながら協議する」が基本です。
最終的に合意できない場合は?
話し合いで解決しない場合は、当事者どちらからでも裁判所に調停を申し立てることができます。ただし現場感覚でいうと、そこまでこじれるケースは稀で、ほとんどは話し合いの段階で決着します。
実際に「据え置き」になったケース、失敗したケース
管理業務の中で関わってきた事例をもとに、参考になるパターンを紹介します。
築20年のアパートに10年住んでいたAさん(単身・40代)。月額62,000円から65,000円への値上げ通知が届きましたが、管理会社に連絡し「10年間、家賃の遅延も問題もゼロです。継続入居を希望しているので据え置きでお願いしたい」と一言伝えました。
オーナーの回答は「据え置きでいい」。Aさんが退去した場合の空室リスクと募集コストを考えると、月3,000円の値上げにこだわる意味がなかったからです。
築10年のマンションに5年住んでいたBさん(ファミリー)。同じ間取りの近隣物件の募集家賃を自分でリサーチし、「現状の家賃でもエリア相場と比較して割高な水準です」とデータで示しました。
値上げ5,000円の要求が2,000円に縮小。管理会社側も「根拠のある話」にはオーナーへ取り次ぎやすく、話が動きやすいのです。
Cさん(単身・20代)は値上げ通知を受けて「そんな値上げは絶対おかしい」「法律で訴える」と管理会社に強く抗議しました。
結果、更新時に「今回で契約終了」となりました。値上げへの反論自体は正当でしたが、感情的な対応が交渉の余地を潰してしまいました。
管理会社は「揉めること」を嫌う:これを活用する
入居者から見えにくいのが、管理会社の立場です。
多くのケースで、値上げの提案をしているのはオーナー本人ではなく管理会社です。「家賃収入を増やしてあげたい」という名目で、相場上昇を口実に提案することがあります。
ただし管理会社はあくまでオーナーと入居者の間を取り次ぐ立場であり、法律上の交渉代理人ではありません。できることは「オーナーへの取次・連絡・状況の報告」です。
それでも、入居者が穏やかに・筋道を立てて「話し合いたい」という意思を示すと、管理会社がオーナーに状況を伝え、結果として落とし所が見つかるケースは多い。
「管理会社 vs 入居者」ではなく、「管理会社を通してオーナーに届ける」という発想で動くと、交渉がスムーズに進みます。
受け取った側の判断フロー:受け入れる?断る?話し合う?
明らかに安い
同等 or 高い
月1,000円以内
月5,000円以上
やってはいけない3つのNG対応
「無視していればそのうち諦めるだろう」は危険です。協議に応じない姿勢と判断され、調停や訴訟に発展するリスクがあります。通知が来たら、必ず何らかの返答をすることが原則です。
「こんな値上げはおかしい」「訴える」という反応は、話し合いの余地をゼロにします。正当な反論であっても、感情的に伝えた瞬間に話が止まります。
「断ったら退去させられる」と思い込み、そのまま受け入れてしまう人は多い。しかし現実は前述の通り、話し合いの余地は十分あります。知らずに損をするのが一番もったいない。
まとめ
| 状況 | 実態 |
|---|---|
| 値上げの通知 | 同意しなければ成立しない |
| 断ったら追い出される? | そんな権限はオーナーにもない |
| 拒否の伝え方 | 冷静に・根拠を添えて・管理会社経由で |
| 交渉は有効か | 居住実績があれば十分有効 |
| 退去を求めてる? | ほぼない。空室の方がオーナーは困る |
| 管理会社は敵か | オーナーへの取次役として活用できる |
冷静に動いた人が、結果として得をする
- 値上げ通知を受け取っても、焦る必要はありません
- まず周辺相場を調べる
- 次に管理会社に「話し合いたい」と伝える
- 居住実績・支払い状況を冷静に示す
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